大井川通信

大井川あたりの事ども

芸は身を助ける

知り合いのやっているデイケア施設の6周年のお祭りで、何かやってくれと招待される。かつて霊場だった山のふもとの、ながめのいい斜面にある小さな施設だ。

施設に到着すると、すぐに紹介されるので、急いで赤い蝶ネクタイをつけて、出番となる。お年寄りや職員の人など、数十人がぐるりと取り囲んで、思ったより熱気がある。それに負けないように熱演する。

まずは、自己紹介を兼ねて、数年かけて浜辺でひろった珍しい漂着物を紹介する。一見きれいな巻貝に見える、タコのつくった殻。アオイガイとかカイダコと呼ばれるものだ。まるで宇宙人の頭骨みたいな、気味の悪い殻。ヒラタブンブクというウニの仲間だ。クイズ形式で、やり取りする。なかなか反応がいい。

次は、ヒラトモ様の由来を描いた手製の紙芝居。施設の「社長」の地元の神様だと話したので、興味をもってもらえたようだ。僕の住む住宅街の敬老会で披露したものを、3年ぶりに再演した。「最後は泣けるよ!」と、我ながら、アドリブの話術がさえる。村人から見捨てられたヒラトモ様が、月夜の晩にお供え物の木の根っこや里山の動物たちとけなげにお祭りをするのが、最後の場面だ。 

ラストは、手品でしめる。耳が突然大きくなる手品で驚かせたあと、数字あての手品。大きなトランプをひっくり返すたびに、数字が変わっていくもので、小学生の頃から人前で演じてきたものだ。ただし観客が取り囲んでいるので、裏面のタネを身体で隠しながら、「舞台」を駆け回って演じる。老舗手品メーカーの商品名は「残念でした」。

僕の出番のあとは、職員さんたちの音楽の演奏があって、大いに盛り上がってお開きとなった。心配していた出し物の評判の方は、まずまずだったようで、お世辞でまた来てほしいといってもらえた。巧拙はともかく、何かを伝えようという熱量が大切なのだと実感する。どのネタも、付け焼刃ではなくて、それなりに時間と手間をかけたものであるのが良かったかもしれない。