大井川通信

大井川あたりの事ども

彗星の行方

今頃になって、レンタルビデオで借りて、新海誠監督の『君の名は』(2016)を観た。想像していたより、ずっと普通に楽しめるよい作品だった。物語では、彗星の接近が重要なモチーフになっているのだが、夜空に長く尾をひく彗星の映像がとても印象的だ。

僕が子どもの頃、アメリカの宇宙開発の影響もあって、天体や宇宙に興味をもつ子どもは今よりずっと多かったように思う。小学生の高学年のときには、友達と先生にお願いして天文クラブを校内に作ったりもした。

当時、76年周期で地球に接近するハレー彗星が有名で、あこがれをもった。1910年の接近では、西の空から東の空にかけて、サーチライトのように夜空に長く尾をひく姿が見られたという。まるで『君の名は』の彗星接近のシーンと同じだ。だから、次の接近年の1986年は、僕に取って初めての(そしておそらくは最後の)心待ちにする未来の年になった。まだ10歳くらいの子どもにとって、15年後は想像もできない遠い未来だったろう。

しかしその年は、あっけなく通りすぎた。就職して3年目で赴任地での仕事と生活に疲れ切っている時だったし、「有史以降もっとも観測に不向きな接近」だったようで、まったくの期待外れだったのだ。僕はハレー彗星を肉眼で見た記憶はない。

リベンジの機会は意外に早く訪れた。その10年後の1996年と1997年に、二つの大彗星が地球に近づいたのだ。ヘール・ボップ彗星と百武彗星。転職した仕事も安定して、結婚して子どもも生まれていた。夜中、近所にある陸続きの志賀島までドライブして、理想的な環境で大海原の上の彗星を見ることができたのだ。

ただ二つの彗星とも、ぼおっとした薄いガスのかたまりのようで、天体写真で見るような、まばゆい核が美しい尾を引くというメリハリのある姿ではなかった。そうして、ようやく子どもの頃からの彗星へのあこがれを終わらせることができたのだと思う。