大井川通信

大井川あたりの事ども

アオスジアゲハの羽ばたき

黒いアゲハの大きくて悠然と飛ぶ姿は、優美でドキッとさせられる。しかし、それがクロアゲハなのか、カラスアゲハなのか、はたまたナガサキアゲハなのか、さっぱり特定できない。実物の特徴を頭に入れて、あとで図鑑で確かめることもあるのだが、すっきりと種類がわかったためしがない。おそらく僕は、このまま黒いアゲハの見分けがつかないままなのだろう。

しかし、ただのアゲハはもちろん、アオスジアゲハについては見間違えることはない。アゲハとしては物足りないくらい小さく見えるほど、羽は細長くスマートだ。そのスマートな羽の中央には、見るたびにおどろくほどに鮮やかなブルーの筋が入っている。夏の日向のわずかな水たまりで、水を吸う姿が印象に残っている。

それが、今日は、昼休みに散歩をする広い雑木林の中で、たくさんのアオスジアゲハを見かけたのだ。蒸し暑い遊歩道の両側の林から、彼女はなんども顔をみせた。すばやく力強く羽ばたいて、にぎやかに舞うと不意に姿を消してしまう。

そのうちの一匹は、偶然、手元の葉の上で羽をやすめる。僕は反射的に手を伸ばすと、ぴんと立てた羽をつまんだ。指先に触れる薄い羽根に、彼女がはげしくもがく筋肉の律動が伝わってくる。傷つけないように、僕は思わず手を放した。