大井川通信

大井川あたりの事ども

トボトボと歩いてきた自分の中の道を大切にする

昔の手帳の欄外に、メモしていた言葉。鶴見俊輔の言葉なのは間違いないが、今では本の題名もわからないので、確認することはできない。

トボトボと歩いてきて、そして今も歩き続けている道。それは一本道ではなくて、たくさんの分かれ道や寄り道を、突当りや迂回や循環をふくんでいる。複雑に入り組み別れた道の先は、はるか藪の中へ、見知らぬ街の中へ、人々の中へと消えていく。

自分の歩いてきたかすかな足跡を振り返るときに、思い出す詩二編。動物の足跡の詩と人間の足の裏の詩。

 

死んだけもののなかの/死んだけものの土地を/ひとすじの足あとが/あるいて行く 死んだ/けものの足あとで

死んだけものの/わき腹へふれた/生きたけものの土地のなかへ/まぎれもなく足あとは/つづいている 死んだ/けものの足あとのままで (石原吉郎「足あと」)

 

家々の屋根は急傾斜している/それらは谷の斜面に建っている

足のうらも傾いている/かれらの父の代から/祖父の代から/祖父のまた父の代から (丸山薫「風土」)