大井川通信

大井川あたりの事ども

ありがとにゃん

井川博年に「生きていく勇気」という詩があって、学生時代に読んでから、頭の片隅に残っていた。

僕は友人とバーで飲んで、友人のバカ話に耳を傾ける。出張先の街でオカマ二人に声をかけられてホテルに入っておこなった行為の詳細に、腹を抱えて笑う。そして、生きていく勇気はどこで与えられるかわからない、という言葉で詩は結ばれる。

生きていく勇気が与えられたのは、その破天荒な夜を過ごした友人だろうか。友人の話に腹を抱えて笑った傍観者にすぎない僕だろうか。どうも後者のような気がする。

 

読書会に参加するために僕は、地方都市の駅前の広場を足早に歩いていた。雑踏の中で、メイドさんが佇んでいる。すっと差し出されたメイドカフェのチラシを、僕はていねいに受け取った。

ありがとにゃん。

予想外の一言に驚いて、僕は歩き過ぎる。その晩の読書会と二次会で僕は、にゃんにゃん、とそのネタを使いまわしてはしゃいでいた。なるほど、生きていく勇気というのは、どこで与えられるのかわからない。