大井川通信

大井川あたりの事ども

詩集「富士山」 草野心平 1966

中学校時代の国語教師は、頑固な初老の先生で、たいぶ鍛えられた。教科書の予習では、国語辞典で調べて新出の熟語の意味をノートに書きだしてこないといけない。生徒たちの辞書の出版社はバラバラだから、これは新潮や三省堂ではどんな説明だったの?とか尋ねられて、実にマニアックな授業だった。ちなみに僕は、先生がお気に入りの黄色い箱に入った角川国語辞典を、3年間で真っ黒になるまで引き続けた。おそらく僕の語彙力の基本はあの時に身に着いたものだろう。

ある時、その教師が、地元の国立市の富士見通で草野心平がつくった富士山の詩を朗読してくれたことがあった。少し鼻にかかった東北なまりの朗読の声を今でもよく覚えている。その詩が読みたくなって、10年ばかり前、県立図書館で全集を借りてようやく探し出したことがあった。記憶通りのフレーズがあってうれしかったのを覚えている。

今回古本屋で、1967年に出版された小ぶりの日本詩人全集の草野心平の巻に、その「天地インウン」という詩を見つけたのは意外だった。ふつうのアンソロジーに選ばれるような有名な詩ではなかったからだ。その前年に出版された棟方志功との詩画集に入っていたから、タイミングよく収録されたのだろう。僕は迷わず300円で購入した。

「国立町富士見通りは文字通り富士見通りで。道路の真正面にまっぱだかの富士がガッと見える。」

ぱらぱらとめくってみると、昔は苦手だったカエルの詩のシリーズも、今なら素直に読めるような気がする。近々、まとめて読んでみよう。