大井川通信

大井川あたりの事ども

ひろちゃんとため池

大井のひろちゃんの家に夫婦で年始の挨拶にうかがう。ひろちゃんは、庭で小魚や野菜を干す作業をしていた。体調を崩していると聞いていたが、思ったより元気そうで安心する。

ひろちゃんは昭和16年生まれで、大井川歩きでは、僕の師匠のような人だ。もう5年前になるが、ヒラトモ様への参拝がきっかけで、ひろちゃんと知り合った。ヒラトモ様に通じる道のわきに、ひろちゃんの畑やニワトリ小屋がある。たまたまそこにおくさんが出ていたので挨拶すると、主人がヒラトモ様に詳しいから寄っていきなさい、と誘ってくれたのだ。その後、小学生のひろちゃんがお父さんに頼まれて町までお酒を買いに行く話を、夫婦で手作り絵本にして渡したりもした。

日差しの暖かな縁側で、お茶をいただきながら、いつものように話をうかがう。モトギ村からお嫁に来た自分の祖母のことが気になって、調べているという。30歳の時に3人の子どもを残して、身投げをしたらしい。凄惨な話だが、昔の村にはそういう事実が埋もれているような気がする。近くには大きな川もないので、身投げという言葉に僕がいぶかると、ひろちゃんがため池だったと教えてくれる。

そういえば、僕の住む住宅街にも村の古いため池があって、鉄のフェンスに囲われているが、ひろちゃんは子どもの頃、そこで泳いで遊んでいたという。記録を見ると、たくさんのため池が17世紀の江戸時代につくられているが、水利に乏しい地域では、ため池はとても身近な存在だったのだろう。

ひろちゃんの家のすぐ近くにも、マスマル池というため池がある。昨日ヒラトモ様への初詣の帰り、水抜きされたマスマル池を観察して発見したことを僕が話す。ため池の崖下に、斜めに伸びる黒光りする地層を見つけたのだ。高さや角度からいって、かつて大井炭鉱が採炭したのと同じ石炭層のように思える。ひろちゃんも僕の「発見」に同意してくれた。昔は、近くに泥炭を採取する場所もあったそうだ。

帰り、ひろちゃん自家製のはちみつの瓶をお土産に渡される。大井に咲く花々の蜜をいただけると思うと、とてもうれしい。