大井川通信

大井川あたりの事ども

飲み仲間の家

兄弟のいさかいによる悲劇は、おそらく四、五十年前の話だろう。家屋も取り払われて、集落の記憶の中で日付も輪郭もあいまいになっているが、かえって濃密なリアリティが感じられる。これが10年前の事件となると様子は別だ。

大井で、ある男の自宅で3人が酒を飲んでいた。ささいのことから言い争いとなり、主の男が客の一人を木刀で何度もなぐりつける。殴られた男は逆上して、台所の包丁を持ち出して、主を刺し殺してしまう。刺した男は、逃げようとして家を出るが、木刀の打撲による傷で道に倒れ込んでしまったそうだ。路上の男を見つけた近所の人が通報したが、15針を縫う傷を負っていた。

近所の出来事なのにもかかわらず、僕にはまったく記憶がない。大井川歩きを始める前だから、自宅を点として意識しているだけで、自分の地域を広さをもつ面としてとらえていなかったからだろう。しかし、こうした殺伐とした事実の経過だけは、ネット上に長く浮遊し続け、収集可能なものとなる。

翌年には裁判員による裁判の判決が出て、正当防衛は認められずに、懲役9年の実刑判決が下された。おそらくすでに出所して、地元に戻っていることだろう。