大井川通信

大井川あたりの事ども

夜の運動会

子猫を飼い始めて一カ月。まだまだオーナーとしては初心者だ。生き物と一緒に暮らすのはほとんどはじめてだから、いろんな発見があって面白い。

毎晩のことなのだが、それまでぐたっとしていた猫が突然、何かが憑依したかのように覚醒して、暴れ出すときがある。急にケモノの目になって、前方の見えない獲物に向かって激しい攻撃をくりかえす、といったふうだ。これを「夜の運動会」というらしい。

よく観察すると、まったく架空の獲物というわけではなくて、床に落ちたゴミだったり、壁のシミだったりの何かをターゲットにしているのがわかる。それらを獲物と見立てて、狩りの訓練をしているということなのだろう。野生では、狩りの能力がなければ一日も生き延びることができない。

低く身構えて一気に前に飛び出したり、空中に舞い上がって跳びかかったり、身体を真横にしてにじり寄ったり、獲物にアプローチする姿は様々だ。猫パンチやキック、捕まえての投げ技など、攻撃のパターンもいろいろある。

誰に教えられるでもなく、あらゆる狩りのシュミレーションを展開する姿を見ると、コンピュータに書き込まれたプログラムの指令で自動運転する機械を見るような不気味さを感じてしまう。

人間だったら、武道の形だったり、スポーツの競技だったりが近いのだろうが、それらは工夫や創造のたまものであり、教育や訓練を経てはじめて伝達されるものだ。

とはいえ、人間が長期間に渡って教育や訓練を受ける姿も、見ようによってはずいぶんと不思議で異様な姿であるのかもしれない。猫の運動会ばかりを不気味に思うのは偏見というものだろう。