大井川通信

大井川あたりの事ども

手品の思い出(リングとコイン)

親戚のおばさんから「悟空の玉」を見せられた後のことだと思う。もう一つ鮮烈な手品体験があった。ある時小学校の通学路の途中で、手品を見せて売っている人に出会ったのだ。住宅街の中の学校だから、通学路でモノを売る人など珍しかったと思う。当時は、学習雑誌の『科学』と『学習』の発売日だけは、校門近くでその販売があった記憶がある。

厚紙の台紙の上に、ビニール製の小さな輪がおいてある。台紙の色が明るいブルー、ビニールの輪が白かったことまで、はっきり目に焼き付いている。輪の中に、10円玉を置く。そして輪の上に、それが隠れるくらいの四角い厚紙をおく。それから、厚紙ごと白い輪を取り去ると、台紙の上の10円玉が消えている。輪を戻して、厚紙をどけると、そこには再び10円玉の姿が。

あまりにも不思議だったから、一回家に帰ってから戻ってきて、その手品のセットを購入した。50円くらいだったと思う。開けてみて、がっかりした。ビニールの輪の底には、台紙と同じブルーの紙が丸く貼りつけてあったのだ。これなら、輪の中の10円玉は輪と一緒に持ち上げられて、消えたように見えることになる。

しかし、手品というものはそういうものだ。だから、演者は基本的に種明かしをしないのだろう。僕はこのあと、たくさんの手品道具を買って、同様の失望を繰り返すことになる。失望は仕方がない。問題は、それが見るものに対して、簡単かつ確実に「奇跡」を再現できるかどうか、だ。この点で、この手品セットは満足できるものだった。

子ども時代の大切な持ち物は、いつの間にか失われてしまう。こんな安易な作りの道具は、専門の手品メーカーも販売したりしない。しかし大人になってから、100円ショップの手品シリーズでまったく同じ種を見つけて、取り戻せたのは幸いだった。