大井川通信

大井川あたりの事ども

手品の思い出(テーパー加工)

中学生の頃になると、友人たちの中には資金力にものを言わせて、いろいろな手品道具に手を出す者も出て来る。資金力では劣る僕だったが、幸いなことに、手品道具はそこまで高価なものではない。天体望遠鏡のように友だちの高額の大口径望遠鏡を指をくわえてながめるだけとはならなかった。

当時、デパートの実演販売で、目新しく比較的高価なカードマジックのシリーズが登場していた。その視覚的効果は抜群で、トランプのワンセットがすべて白紙になってしまったり、同じ数字のカードに代わってしまったりする。僕も友人たちにおくれて、そのシリーズを一つだけ買うことができた。

そのカードには、ラフ&スムース加工とロング&ショート加工が施されていた。カードにラフな(ざらざらした)面とスムースな(なめらかな)面とを作っておけば、手にもって扇型に広げた時には、ラフな面同志は密着して開かず、スムースに加工された面だけが観客の目に触れることになる。一方、わずかに長いカードと短いカードを交互に並べておくと、親指で押さえてパラパラとめくった時には、長いカードだけが指にかかって観客の目にとまることになる。

この二つの加工の効果を組み合わせて、あたかも全体がバラバラの普通のカードであるように見せたり、全体がすべて同じカードに見せたりするものだった。

僕たちは、こうした加工名を覚えて、手品を不思議がる友人たちに得意げに吹聴していた。加工名は、ほとんど手品の種をばらしているようなものだ。お互いにヒントを出し合っての駆け引きを楽しんでいたのかもしれない。

僕はその頃、テンヨーの別のカードマジックを得意にしていた。裏向きに広げたカードから一枚を選んでもらい、好きな場所に戻してもらう。そのカードを、ずばりトランプの束から引き抜くというもの。

トランプには、テーパー(先細り)加工が施されている。わずかに上辺と下辺の長さが違うから、選んだトランプを戻してもらうときに、密かに束の向きを変えれば、その逆向きのカードだけ少し指にかかることになる。僕は、友人たちに「テーパー加工」を自慢した。

忘れもしない。すぐあとの「技術・家庭」の時間だった。先生が、機械の説明の中で、テーパーという言葉を使ったのだ。僕が心底驚いて、肝を冷やしたのは言うまでもない。ただし、その後の展開は不思議と覚えてはいない。事なきをえたのだろうか。