大井川通信

大井川あたりの事ども

小山田咲子さんのこと

二年ばかり前、ネットが苦手の僕がたまたまブログの登録をしたときに、書き続けてもいいと思ったのは、以前に小山田咲子さんの書いたブログを読んでいたからかもしれない。

僕は、彼女が亡くなった後まとめられた『えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛している』(2007)という本でそれを読んだ。本を編集した知人にすすめられたのだ。僕は、彼女の文章に驚いて、自分が参加している読書会で報告したいと思った。
その読書会は、ふだん著名な哲学者や評論家の本を取り上げていたのだが、彼女の文章と思考の輝きは、十分それらに匹敵するように思えたからだ。ただ著者の名前に頼らずにそれを説明しないといけない。僕は、自分にできる限りの読みの手法を使って、彼女の「瞬間の思想」と呼ぶべきものをつかまえ、それが無意識の体質に基づくものではないかという仮説をレジュメにした。今思えば、ずいぶんと肩に力が入った文章だった。

読書会報告は、小山田さんの歌声や、当時売り出し中だったandymori(彼女の弟さんのバンド)の曲をかけたりして自分なりに満足のいくものになった。参加者の中に発信力のある大学の先生がいて、彼がホームページで本を紹介してくれたから、彼女の読者を増やすことには多少貢献できたとは思う。

ただ調子にのった僕は、自分の「考察」を小山田さんの知り合いにぜひ呼んでもらいたいと思った。それで大学時代から女優として活躍していた彼女の友人の所属事務所にレジュメを送ってみたのだ。あとから、知人の編集者の元にその友人から猛烈な抗議がきたという話を聞いた。

直接面識のない僕には、どんなに一生懸命テキストを読んだところで、そこに本当の追悼の気持ちはない。自分の読みを誇るような軽薄な気持ちを、彼女は正確に見抜いていたのだろう。これにはこたえた。いまでも、たまに彼女の姿を映像で見ると申し訳ない気持ちに襲われる。

読書会は10年前のことだけれども、不思議なことにその後も小山田さんとの縁は続いた。数年前、彼女の中学時代のバスケ部の顧問と、たまたまいっしょに長期間仕事をする機会があったのだ。かつての恩師に、小山田さんのボーカルの入ったインディーズバンドのCDをプレゼントした。彼はとても喜んで、車で聴いているといってくれた。(少しは親友を傷つけてしまったことの罪滅ぼしになっただろうか)

その恩師も、ワイドショーネタで全国に放送された前市長のスキャンダルの後の選挙で、地元の市長になっている。天国の小山田さんも、これにはきっと驚いていることだろう。