大井川通信

大井川あたりの事ども

大井で花見に歩く

年度がわり前後の忙しさが一段落して、久しぶりの大井川歩き。テーマは花見。間に合ってくれただろうか。

まず、ババウラ池をのぞく。稲作に備えて水をためた池に、ちゃんとカイツブリの夫婦がいる。少し離れたイケノタニ池にも。一昨年は、早めに水の抜かれた池からヒナたちが飛び立てるかどうか、はらはらしながら見守った。昨年は子育てを見逃した。人が見る見ないにかかわりなく、この小さな水鳥の種族は命をつないでいる。

ババウラ池を見下ろす電柱には、カササギが丸い大きな巣を木の枝で作っている。長い尾が、日の光でグリーンに輝いてみえる。どこまで美しい姿なのか。ただ、巣は停電の危険から撤去されてしまうだろう。

大井に向かう街道沿いの高台にそびえる一本桜が、今年も見事に咲き誇っている。分厚く広がる花の雲のようだ。少し散り始めているが、まだ盛りといっていい。小学校の校庭の脇を抜けて、示現神社に参る。古い石段の参道は、このあたりでは隠れた桜の名所だが、やや盛りは過ぎたか。

神社の近所に酒蔵があって、入り組んだ町並みに、優美なレンガの煙突が目印になっている。煙突には誇らしげに「稲乃寿」の文字。初めてお店に入る。45歳の息子が小学二年の時までここで酒を造っていたが、今は本家の造り酒屋から取り寄せているそうだ。母親のそういう振り返りにお店と家族の歴史を感じる。宗像美人と銘打った酒を買うと、酒粕をオマケでいただいた。

大井に戻って、ところどころレンゲが花を咲かす田んぼを歩く。近くに桜の木もないのに、花びらが一枚風に流されてきて、ひらひらと蝶のようだ。せわしなく羽ばたくヒバリの高鳴きを聞く。南国から戻ったばかりのツバメが宙をまう。不意に、金色の小鳥が飛び出して、目を疑った。よく見ると、どこにでもいる黄色のカワラヒワだ。夕陽のマジックだろう。ただ、異様に幸福な気分に満たされる。

薬師堂の脇の桜の古木があって、ありがたいことに、こちらもまだ花盛りだ。背は低いのに、左右に広がる樹形がよい。先程の街道沿いの桜と合わせて、僕の中で大井川歩きの桜の名木と認定する。二本とも、やや花期が遅いのかもしれない。

薬師堂の隣にある古民家カフェに顔を出す。村の賢人原田さんは、幼稚園の入園式の手伝いで不在だった。店主の小川さんに、手土産の新酒をことづける。酒粕は、ちょうど別の酒蔵に買いに行くつもりだったと喜ばれる。美味しいお菓子の材料になるのだそうだ。