大井川通信

大井川あたりの事ども

次男と仏像

東京から来た姉を妻があちこち案内したとき、国立博物館に寄った。そこで京都のお寺の寺宝を展示した特別展をやっていて、せっかくだからざっと見ておこうと入ったそうだ。すると、意外なことに、次男が一体一体の仏像をじっくりと観て動かない。キャプションもていねいに読むから、姉も妻も戸惑いながら、感心したそうだ。

あとで聞くと、仏像の作り方の解説も入っていて、それに興味をもったらしい。妻には、博物館に一人で来る道順を尋ねたという。

次男は、生まれつき軽度の知的な障害があって、言葉が遅かった。今では漫画はもちろん、ライトノベルを読んだり、きちんとした作文が書けるけれども、しゃべることには少し苦手意識が残っているかもしれない。

特別支援学校の高等部を卒業するとき、先生は工場での単純作業のような仕事を勧めたけれども、親としては、できるだけ需要があって、習熟やステップアップのできるもので、何より人と会話ができる仕事につけたかった。それで、大変かもしれないが、老人介護施設に就職することになった。

そこで二年間頑張って働いているのだが、どうしても家と職場との往復の生活になる。次男の性格上、人間関係には消極的だから学校の友人とも疎遠になってしまった。今年の四月には、地域の手話サークルへの参加をすすめたのだが、本人の意には沿わなかったようだ。

それでもこの二年間で、漫画博物館に温泉施設と、休日にひとりで通って長時間楽しめる場所を二つ開拓しているのだ。あせることはないのだろう。

今回の仏像への思わぬ興味の芽は、大切にしてあげたい。寺院建築を観るのが趣味である僕は、仏像も嫌いではない。寺に連れて行ったり、教えたりすることは簡単だが、そんなことをしたら、親父へのアレルギーでせっかくの興味を失ってしまうだろう。

さてどうしたものか。東京への帰省の途中、さりげなく京都や奈良に寄ることを今は考えている。