大井川通信

大井川あたりの事ども

あの虹をこえて

妻の携帯電話が鳴る。勤め帰りの次男からのようだ。妻が料理で手が離せないので、僕が取ると、次男の興奮した声が聞こえる。

すごい虹が出ているから、見てみい。

デッキに出ると、まだ明るい夕方の空を、細く強い光の束が、サーチライトのように駆け上がっている。惜しいことに、大きな円を描いているはずの上部付近では色はかすれてしまっているが、反対側ではまた鮮やかな光の束に戻って、遠い町並みに足をおろしている。なるほど。見事な虹だ。

夫婦でながめていると、やがて次男が帰ってくる。駅を降りて気づいた時には、虹は大きくつながっていたと、その時の画像を見せてくれる。

こんな虹は生まれて初めて見た。アニメか漫画にでてくるみたいな虹だった。次男の興奮は収まらない。

たしかに、僕だって虹で感動した記憶など、長い人生でそう何度もなかった。今年二十歳になった次男が、人生ではじめてというのも無理はない。まして家族で虹を見上げた今日は、彼の人生で、いつか特別な日になるだろう。