大井川通信

大井川あたりの事ども

ハチの次は、キュー

ハチが亡くなったときは、妻はもう猫は飼わない、といっていた。実は、妻はハチとはじめから上手くいっていたわけではない。手術の後遺症で手に傷をつけてはいけない妻は、かんだり、引っかいたりが好きなハチに手を焼いていた。潔癖症に近いところもあって、毎日の生き物の世話は、はた目にも無理に思えるところがあった。

一度は里親に出すといってきかなくなり、遠方に住む猫好きの長男に説得を頼んだこともあった。ハチがてんかんであることがわかり、家で育てる覚悟ができてからは、そんな話はしなくなったが、腕白なハチは、怒られることが多かった。しかし甘えっこだったから、妻にいつも抱かれているようになって、最後の頃には深いきずなが生まれたように思えた。

家族からみると、ハチを育てるようになってからは、妻も病気の心配をすることも減った。副作用のひどかった投薬をやめる決断ができたのも、ハチのおかげだったと思う。だから、妻のためには、機会があればまた猫を飼いたいと思っていた。

そんな中、偶然の出会いがあって、また子猫を家に迎えることになった。僕は、顔がハチにそっくりだったから気に入ったのだが、何よりとても大人しい子猫だというのが決め手になった。

名前は、妻に決めてもらった。ハチの次だから、キューで、九太郎がいいという。結局、我が家は、長男、次男に続いて、三男、四男と、男ばかりの兄弟となった。ハチは、一緒に暮らした時間は短かったけれど、我が家の立派な三男だ。そのことを大切にする意味でも、九太郎はいい名前だと、僕も思う。

こうして、我が家では、八ちゃんだ、九ちゃんだと、何度も言い間違えながら、また子育てが始まっている。