大井川通信

大井川あたりの事ども

女王の交代

昨秋から、クモを観察するようになった。職場近くの林には、ジョロウグモのクモの巣があちこちにかかっている。自分の巣にぐるぐる巻きに絡まったときに脱出できるか、とか無慈悲な実験をやってみたりした。冬が深まると、巣の数は減っていくのだが、大寒波の中、年を越した命強い個体がいるのには驚いた。

ジョロウグモは、胴体も足も黒色と黄色の縞模様で、腹の下には毒々しい赤色が入る。とても目立つが不気味だ。虫好きの子どものときでさえ、敬遠していた記憶がある。

ところで図鑑をみると、全身黒と黄の縞模様の大型のクモに、コガネグモという種類がある。名前を覚えているから、子どもの頃はこちらも見かけていた気がする。ところが、今は林の中や家の近所で見かけるのは、ジョロウグモばかりである。

新しい図鑑の解説をみると、近ごろはコガネグモは都会から姿を消したとあるから、もともと環境の変化への適応力ではジョロウグモに劣っているのかもしれない。しかし家の近所は、じゅうぶんな自然も残っている。

少し前の新聞にクモのことがかかれた記事があって、コガネグモを「夏の女王」、ジョロウグモを「秋の女王」と解説していて、膝をたたいた。出現の時期が違っているのだ。

今年の夏はゲンゴロウを探している時に、田んぼのわきの用水路をまたいで巣をはっているコガネグモを何匹も見つけることができた。田んぼの近く以外では見ないので、おそらくそこに生存や繁殖に不可欠な何かがあるのだろう。都市化で姿を消したのがわかる気がする。ジョロウグモより胴体に丸みがあるから大きく見えて、縞模様も虎のように太くはっきりしている。女王というより、王様という感じ。しかし予備知識がなければ、ジョロウグモと思って見過ごしていただろう。

一方、ジョロウグモの方は、夏の初めから小さな個体を見かけてはいたが、近ごろはその数も増え、また身体も少しずつ成長してきている。秋も深まれば、林や庭のあちこちで、女王という名にふさわしい立派に成熟した姿をみせてくれるにちがいない。