大井川通信

大井川あたりの事ども

大井のはちみつ

家を一歩もでたくない。ゼンマイがほどけてしまったような、電池が切れてしまったような休日が、僕にはよくある。そんな日は、本も読まずに、何も考えずに、昼寝をしたりして一日を過ごす。

お腹がすいたので、一枚の食パンを取り出し、はちみつをたっぷり塗って、コップになみなみついだ牛乳を飲みながら、食べる。

はちみつは、大井村のひろちゃん(吉田弘二さん)からいただいた自家製だ。大井の新鮮な花の蜜をあつめて、透明で、なめらかで、ほんのりとやさしく甘い。

目をつむると、僕は一匹のハチになる。里山の山ふところにあるひろちゃんの農園を飛び出した僕は、群れの仲間といっしょに休耕田のコスモスの花々を満喫する。大井川をまっすぐにさかのぼって、土手の花々の蜜を吸う。

水神様や和歌神社を下に見て、集落をこえて、納骨堂あたりに咲き誇った花々を味わう。そうして僕は皆からはぐれて、どこまでも高く飛んでいく。大井川上流のダムも、ひろちゃんの農園も、里山の住宅街も、眼下にどんどん小さくなる。いったいどこまでいくのだろう。

その時、僕は、部屋の中で、食パンの最後の一切れを口に入れる。