大井川通信

大井川あたりの事ども

『改訂 古建築入門講話』 川勝政太郎 1966

学生の頃買った本で、その時の書店まで覚えている。京王線府中駅近くの大きな本屋さんだった。一回手放してしまい、いつか手に入れたいと思っているうちに絶版となってしまった。

昨年500円で新刊書同然のきれいな本をみつけたのは、国立駅前の古本屋さんだ。ネットでの売買が当たり前になると、こうした強い印象を伴った本との出会いはなくなってしまうのかもしれない。

本物の組物を手に入れて、古建築の細部意匠について、もう一度しっかり勉強したいと思うようになった。そもそも組物の「平三斗」ですら、うろ覚えだった。古建築には部材の専門用語が山のようにある。覚えるためには、基本書を決めて、それをぼろぼろになるくらい読み込まないといけない。(司法試験仕込みの勉強法だ)

細部意匠について、専門書も持っているけれど詳しすぎる。新しい本は写真をふんだんに使って説明しているが、リアルな画像は端的に意匠の特徴を示すには不向きなところがある。(鳥見の本も、写真より絵図の方が使いやすい)

この本は薄く手軽で、細部意匠の説明も手書きの図解でおこなうためわかりやすい。さっそく基本書として、大いに汚すことにする。

昭和9年(1934年)に旧版が出版された本書は、著者の主観のこもった文章も味わい深く、醍醐寺の華麗な名塔に対してすら容赦がない。

「京都の醍醐寺にある平安時代の有名な五重塔のごときは、高い建築であるから遠くから望み見てまことに壮観であるはずなのに、松林中に建っているので姿が隠されてしまい、近くに来て見なければ見えないのなどは、はなはだ惜しいものだという感じがする」