大井川通信

大井川あたりの事ども

『偕成社/ジュニア版 日本文学名作選』 全60巻 1964-1974

僕が子どもの頃、おなじみだった赤いカバーの近代日本文学のシリーズ。ポプラ社にもよく似たシリーズがあったけれども、偕成社版が本物のような気がしていた。やや小ぶりだけれども厚めのハードカバーで、江戸川乱歩シリーズやホームズやルパンのシリーズと同じようなサイズ。挿絵は新聞小説にあるような本格的なものだった。

ラインナップを見ると、近代文学の名作と並んで、今ではもう名前を聞かなくなった作品が選ばれているのが面白い。定番の『次郎物語』のほか、井上靖の『しろばんば』、大佛次郎の『ゆうれい船』、石森延男の『コタンの口笛』など。いつか、このラインナップを全作読むなんて企画をやってみたら、楽しいかもしれない。

何冊かは持っていたが、例にもれず、すべて失っている。『路傍の石』を読んだのも、芥川の短編に触れたのも、このシリーズだった。なぜか漱石の『吾輩は猫である』の上巻だけが家にあって、大学受験の勉強中、気分転換に繰り返し読んでいたのも懐かしい。漱石の笑いのセンスは、まるでギャグマンガを読むようだった。

今回、ネットで状態のよさそうな本を手に入れて、何冊か書棚に並べてみると、やはり気持ちがたかまる。僕にとって、本の魅力は、読むこと以上に、背表紙を眺めたり、手に取ってパラパラとめくってみたり、所有することそれ自体にあるのだと気づく。