僕の知っているのは、今から40年近く前の東京経済大学だ。
東経大は、東京郊外の小規模な私立大学だけれども、個性的で気鋭の研究者がそろっていた。フランス現代思想の今村仁司先生と、当時人気学者だった栗本慎一郎と経済人類学でライバル関係にあった山崎カヲル先生。栗本も東経大の来る話もあったけれども、明治大学に決まったので蹴られたと、今村先生から聞いた記憶がある。
社会学者で、のちに様々な著作を発表することになる桜井哲夫先生。リベラルな歴史研究で名高い色川大吉や、哲学者の荒川幾男、マルクス主義国家論で著名だった柴田高好もまだ現役の教員だったと思う。
僕は、都心のマンモス大学の早稲田の学生だったけれども、大学の後半は、自宅の隣町にある東経大のキャンパスで時間を過ごすことが多くなった。今村先生のゼミと講義、山崎先生や桜井先生の講義を、僕は一円の授業料も払わずに、モグリで受けた。
そして、あの居心地のいい図書館。ハケの斜面にそって建つその建物が、図書館建築で有名な鬼頭梓の設計になるものだと知ったのは、後になってからだ。(図書館界において知らぬもののない日野市立中央図書館の設計者が鬼頭梓。東経大図書館は現在は改装してホールとなっている)
ハケの下の駐輪場に自転車をとめ、図書館脇の雑木林の坂をのぼったのが、ほんの昨日のように思い返される。今の僕に影響を与えているのは、母校以上に東経大だろう。
しかし、ネットなどでは「偏差値」によるくだらない序列意識やレッテルはりを見ることが多い。だから僕は、機会あるごとに東経大の良さを声を大にして言い立てたくなってしまう。あの頃の恩返しのつもりで。