大井川通信

大井川あたりの事ども

赤色巨星の憂鬱

オリオン座の一等星ベテルギウスの明るさが昨年末から急に暗くなり、これまでの半分以下になってしまったことを新聞で知った。それからしばらく曇りや雨の日がつづいていたが、今日ようやく星空を見上げることができた。

なるほどオリオン座の右肩にあたるベテルギウスのかがやきは、すぐ隣の右肩の二等星とかわらないくらい暗くなって、なんだか心細く揺れている。

子どもの頃愛読した天文の図鑑には、恒星の大きさ比べのような図が載ってて、宇宙の闇を背景に描かれた赤色巨星の異様な大きさが印象に残っている。それが恒星の晩年の姿だと知って、それ以来、アンタレスベテルギウスのような赤い一等星が何か特別な存在として気になるようになった。

変光星というものがあるという知識はあったが、規則的に明るさを変えるのは特殊な星で簡単に肉眼で観察できるものではないと思っていた。実際、ベテルギウスの従来の光度変化は、これほど急激で大きなものではなかったようだ。すぐに超新星爆発を引き起こすかはわからないが、その可能性がまったくないわけではなさそうだ。

ただ、今回の新聞記事を読んで、少し奇妙な気分になった。ベテルギウスの年齢は800万歳、地球からは700光年の位置にある。宇宙には、もっと古くから存在する恒星も、もっと遠く離れた恒星も無数にある。そこには我々の感知する時間とは、およそスケールのかけ離れた時間が流れているはず、と思っていた。実際に、まちがいなくそうだろう。

しかし、ベテルギウスは、数か月という全く人間的なスケールの短時間で明るさを半減させてしまい、場合によっては、その星としての死の瞬間に立ち会えるかもしれないのだ。これは、それこそ天文学的な偶然の出来事なのかもしれない。