大井川通信

大井川あたりの事ども

仮面ライダーと昆虫図鑑

僕は小学生の頃、小学館の学習図鑑のお世話になった。当時、図鑑と言えば、蜜柑色の背表紙の小学館がメインで、70年代に入ってから、ようやく学習研究社の図鑑が巻き返しを図る状態だった。

確か手に入れた一冊目は、昆虫の図鑑で、ボロボロになるまで使ったと思う。今手元には、クリーム色の背表紙の昆虫の図鑑があるが、これは1997年の新訂版だ。昔の小学館の図鑑は、解説の全てが絵だった。新訂版ではカラー写真がかなり追加されている。ただ、昆虫を描いた絵のほとんどは昔の図鑑を引きついでいるようで、懐かしく思える絵も多い。現在、書店に並ぶのは、全面カラー写真の様変わりしたシリーズだ。

テレビを見ていたら、石ノ森正太郎が、テレビの初代仮面ライダー(1971-1973年)のデザインを考案するときの秘話をあつかっていた。アイデアに行き詰った石ノ森は、編集者が持ってきた資料の図鑑をめくって、バッタの姿にヒントを得て、デザインを固めたそうだ。バッタがモデルなのは有名な話だが、図鑑が資料だとは知らなかった。

仮面ライダーは、僕が小学校4年生の時に放送が始まって、クラスでも大人気だったものだ。しかし、例によって僕は家では番組を見せてもらえなかった。

ここからは、思い切り推測の話だ。手元の昆虫図鑑を開いてみると、見開きいっぱいにトノサマバッタの身体を描いて、詳細に身体の仕組みを解説したページがある。なんでも写真がいいというわけではなく、こうした図解は絵ならではのわかりやすさがある。

この巨大なノサマバッタの絵の5センチもある顔の部分が、実にかっこよくて、そのまま仮面ライダーのマスクみたいなのだ。大きな複眼が、きりっと光っている。写真ではこうはならなかっただろう。

石ノ森正太郎がヒントにしたのは、間違いなくこの絵だろうと直感した。あくまで直感だが。