大井川通信

大井川あたりの事ども

井亀あおいさんの詩 

『アルゴノオト』の著者井亀あおいさん(1960-1977)の、もう一冊の遺著である『もと居た場所』をネットの古書でようやく手に入れた。今でも求める読者がいるようで、けっこう高い値段だった。文芸部の雑誌に発表したり、ノートに残されたりしていた小説やエッセイや詩などが集められていて、密度の高い手記である『アルゴノオト』よりも読みやすそうだ。

井亀さんについては、昨年このブログでも記事にした。僕とほぼ同世代であること、彼女が自死の場所に選んだのが僕が今住んでいる街だったことがあって、忘れがたい人である。もし僕の人生が、高校生で終わっていたとしたら、どうだろうか。そんな問いを突き付けてくれもする。

50篇あまりある詩をながめていて、「工場地帯」という作品が目についた。当時彼女が住んでいたのは、重工業地帯として全国に名をはせていた街だ。

言葉を直線的にたたみかけるスタイルは、この詩だけに選ばれたもののようで、他にはない。近代の工業の本質を「直線」に見て、それを外界だけでなく「精神」にも「自己」にも発見する内省の力は、とても15歳の作品とは思えない。

 

直線だけで造られた一角であり/壁から窓から凡て直線だけが存在するのであり/曲線さえもが直線で造られた一角であり/出て来る製品は凡て直線であり/その製品の色彩から光沢から凡て直線によって存在するのであり/その製品を造った機械も直線であり/その製品を造った機械を動かす人の手も直線であり/その人の手の動きさえ直線的であり/その人の手を動かす精神もまた直線であり/山の上から見た水銀灯の光は直線であり/凡て直線でしかないのであり/その様にうけとる自己こそ直線的であり/おかげで人間と工場は同調して居られるのである (「工場地帯」 1976.1.19)

  

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