大井川通信

大井川あたりの事ども

教育の矛盾くらい、いい反面教師はいないのかもしれない

安部公房の評論集『死に急ぐ鯨たち』からの言葉。

満州という植民地で育った安部公房は、教育の建前として「五族協和」というコスモポリタニズムを叩きこまれつつ、日本人の優秀性という矛盾した教義を反復させられた。実際に「内地」から来る日本人は、中国人、朝鮮人に対してひどく横暴だった。しかし、この矛盾からナショナリズムに対する嫌悪感を身につけたという。

僕の知り合いの夫婦で、今年小学校に入学する年齢の自分の子どものために、プライベートスクールみたいなものを開く、という人がいる。どういう内容でどこまでやるのかはわからない。ただ、彼らは、自分の暮らしや仕事を既成の枠にとらわれないでデザインしてきた人たちだから、おそらく自分たちの子どもの教育も自分たちの方法でデザインしたいのだろうと思う。

そう思う気持ちもわかるし、困難がともなう新しいチャレンジはとても大切だと思う。ただ、人間が一筋縄ではいかない複雑な存在であると思うのは、彼らもまた、現行の画一的な教育制度で育つ中で、今の自分たちを作り上げてきた存在であるということだ。もし現行の教育を受けなければ、今の考えや生き方にたどり着くことはなかっただろう。

彼らの子どもたちも、両親の提供する教育環境に反発や嫌悪を感じることから、自分を作っていくことになるのだと思う。理想の実現を求めながら、深い反発や嫌悪を招いてしまうのが教育や子育ての本質なのかもしれない。