大井川通信

大井川あたりの事ども

黒尊様考(用山信仰論・その3)

★この調査で知った全国のクルソン信仰の聖地、とりわけ黒尊様と漢字も読みも同じである宮崎県の巨石はぜひ参拝したいと考えているが、実現していない。

 

【クルソン信仰】

実は、今では、黒尊様の本体は、この霊山から授かった何か実体のあるもの(像、お札等)ではないか、と考えているのだが、その理由は、かつての村人の生活への修験道の影響の大きさに気付くようになったことと、狗留孫信仰についての菊池武氏の研究に出会ったことが大きい。

 

「山を愛し、また興味ある人々なら、日本の山岳地帯に『狗留孫山』と呼ばれる山が多くはないが散在することを御承知だと思う。一見して、仏教用語だと分かるこの『狗留孫』は、仏の名で、これにちなんで付けられた場合が多い。そして、例外なくここには、狗留孫仏(石)といわれる巨大なメンヒル(立石、巨石)が山中にそびえている。そもそも狗留孫仏とは、釈迦の過去七仏の第四番目で・・・一度の説法で解脱させた衆生の数は4万人という。インドでは、実在の仏とされ、生まれた都城の跡や、種々の塔があって、・・・獅子頭の9メートル余の石柱があったとされている。」(「山と巨石信仰-西日本の狗留孫仏」菊池武 1990)

 

菊池氏は、修験者たちが、巨石を神とみる民俗信仰に狗留孫仏を結び付けて教えを広めたものと考えている。また、この研究の中で、14例の一覧表と分布図を作成しているが、興味深いのは、その表記に多くのバリエーションがあることだ。

「狗留孫」「狗留尊」「俱留尊」「倶呂孫」「黒尊」「黒墨」等々。もともと当て字なのだから、現代のように「正解の」表記や発音に神経質になる必要はないのかもしれない。菊池氏の調査では、「黒墨様」と表記された宮崎県日之影町の巨石について、現在のネット情報では、「黒尊様」と紹介されており、用山と同じく「くろすみ」と読ませている。

巨石のない用山では、狗留孫山で授かった小さなご神体を、黒尊様=狗留孫仏(石)として山上に祀り信仰してきたのではないだろうか。