大井川通信

大井川あたりの事ども

『教師崩壊』 妹尾昌俊 2020

公教育の現状の全体について、バランスのよい説得力のある議論を示している。誰もが気楽に手に取ることができる新書版では、ほとんど初めてのことではないか。

データとファクトに基づいて議論をすすめているが、特別な情報を使っているわけではない。少し注意深く周囲を見回せば、多くの人が手に入れることができる情報に基づいている。

「教師が足りない」「教育の質が危ない」「失われる先生の命」「学びを放棄する教師たち」「信頼されない教師たち」という五つのティーチャーズ・クライシスをとりあげ、それらがもはや解きほぐせないほどからまりあいながら、教育をめぐる問題を構成していることを指摘する。

このきわめてまっとうな問題設定からみると、従来の教育に対する様々な批判が、問題のごく一部を切り取ったもので、構造的な解決を視野に入れていないものであることが良くわかる。

解決の大きな方向性は、学校・教師への負担や積み荷を軽くしていくことしかない。そのためには、何か新しい問題らしきものが見つかるたびに、学校・教師を批判し、現場に新しい課題を投じて事足れりとする思考法を、国も社会も我々も改める必要がある。こう考えると、たとえばコロナ禍による9月入学の提唱が、いかに的外れなものであるかがわかるだろう。

筆者は、教育畑の出身者ではない。だからこそ、全体が良く見えるのかもしれない。しかし、この全体像は、教育関係者なら多くの人が薄々気づいていたことだ。それを公共の問題として提示することを怠っていたのだといえる。教育の外にいる人たちも、教育の現状を直視することをサボタージュしてきた。

我々の教育を見る目はくもり、ゆがんでいる。そのことに暗澹となる。