全国的にみて自殺率の極めて低い四国の小さな町を調査して、「自殺予防因子」を見出した自らの研究をわかりやすく解説している。著者の真面目さ一生懸命さは伝わってくるのだが、僕にはよみにくい本だった。
ここでの研究の成果というものは、いかにもそういうことがあったら自殺する人も少ないだろうな、と常識の範囲で理解できることばかりだ。たとえそうだとしても、それを実証したり、その実証のもとに自殺予防の施策を展開したりする必要性が研究者や行政関係者などの一部にあることは納得できる。
しかし、読みながら違和感が募るのは、著者が、この研究成果に基づいて生活やコミュニティのあり方についての一般的な結論を導き出したり、それを一般の人に提案したりすることができると素朴に信じているように見えるところだ。この研究からだけで「生き心地が良い」などという大げさな概念を導き出すのは、飛躍が大きすぎる。
人々の生活とその歴史を丸ごと含んだ地域を一つの視角からの実証で外から採点したり、それに基づいて人々の生き方を指南するのは、とても不遜だし、何かが転倒している気がする。
著者の話を聞いた人からは、自殺の多い地理的特性のある場所から移住したらいいだろうとか、そういう地域に引っ越すのを止めようとかいう反応があるらしく、筆者はそれに反論する。しかし、そういう浅薄な反応を引き起こしてしまう弱点は、著者の語りの中にあるのではないか。
ところで、この研究で興味をそそったのは、著者が奇妙に解説をスルーしている海との関係だ。自殺率の低い地域のトップテンが、著者が調査に入った町(第8位)以外はすべて島だったこと。全国調査でも「海岸部属性」(海に接している度合い)が高いほど、自殺率が低いという結果がでている。
僕自身、海に面した地域に住んでいて、海沿いの職場で毎日海を眺めていたこともある。海という異界への広大な通路に接していることの精神的な作用は格別だと実感する。