大井川通信

大井川あたりの事ども

トンネルを抜けて

お盆だがコロナ禍で人込みには外出もしづらいので、夫婦で田舎にドライブに行く。山間の小京都秋月と、豆菓子店のハトマメ屋を目標にすることにした。秋月に行くには、大宰府の方に大きく迂回するか、筑豊経由なら山に入り、やっかいな峠を越えないといけない。

ネットで山腹を貫く4キロメートルの新しいトンネルができたことを知ったので、それを使ってみる。自分の良く知っている筑豊の風景から、わずか10分ばかりトンネルを抜けただけで、あっけなく、おおげさに言えば別世界にあるはずの秋月に着いてしまった。

一般的には便利になったとしか言えないことだろうけれども、便利という言葉では尽くせないような世界の変更があったような気がする。

トンネルを掘るとまではいかなくても、思いがけず近道を発見して、目的地が予想外に早く突然目の前に現れることに驚く、ということは子どもの頃の記憶にある。それはとても魅力的な体験だった。

公道は、家や公園などの敷地の外側に沿って伸びている。だから、敷地のかたまりであるブロックの中にある林や路地をたくみに抜けると、公道を行く人を先回りしてブロックの向う側にだどりつけるのだ。それはあたかも山腹に直線のトンネルを掘る作業に似ている。

僕にとって子ども時代のショートカットは何よりも、隣町の府中のコガネ山のそれだった。コガネ山は国分寺崖線(通称ハケ)の斜面に沿って続く雑木林だ。ハケ下には大きな病院や学校、住宅街が並んでいて、公道はその外側を大きく迂回して、目的地の黒鐘公園や武蔵国分寺跡に向っている。

雑木林を突っ切ると、おそらく半分以下の距離で、いつのまにか黒鐘公園上の林にたどり着くのだ。大きな雑木林という異世界が織りなすマジックのようで、何度歩いてもその不思議さは消えなかった。