大井川通信

大井川あたりの事ども

あだ名について

人のあだ名をつけるのが上手な人がいる。人の物まねをするのが上手い人がいるが、それと同じような一種の才能だろう。

子どもの頃は、友人同士や教師にたいしてふつうにあだ名をつけていたと思うが、大人になると、そもそもあだ名というものにめったに出会わなくなる。自然と、あだ名付けの名人出会う機会もなくなる。その才能のある人間も、腕を振るう機会を失って、埋もれていってしまうのだろう。

社会人になって、同僚で一人だけ、この名人に出会ったことがある。この人のつけたあだ名を忘れることができない。

「お猪口」。器量が小さく、びっくりするようなささいなことでも怒りだす上司に対して。器がお猪口(ちょこ)のように小さいという意味。

「たくらみメガネ」。ていねいで上品だけれども、いつもメガネの奥で何か策略を練っているような同僚に対して。これはそのものずばり。

もちろん批判や揶揄の気持ちが込めてあるのだが、相手を一方的に責め立てるのではなくて、どこか余裕をもって関係を受け入れて楽しむという余地を残しているような気がする。