大井川通信

大井川あたりの事ども

「家系ラーメン」の幻想

味覚とグルメに関してはまるで自信がないと、このブログでも書いてきた。それでも凝り性だから、何かの食べ物に憧れたりすることはある。その場合でも、せいぜいB級グルメなのだが。

家系ラーメンというものを初めて知った時には、まず、その不可解なネーミングにひかれた。地名や食材ならばわかるが、「家」ってなんだ。

種明かしは、横浜の「吉村家」というラーメン店を源流とするラーメンで、のれん分けなどで派生した店の屋号に「〇〇家」が多かったため、家系という通称で呼ばれるようになったらしい。豚骨醤油の濃厚なスープと太麺、海苔とチャーシュー、ホウレンソウのトッピングが特徴だ。

以前、東京の実家近くの家系ラーメンに入ったら、そこがたまらなく美味かった。今の地元でも好きなラーメン屋は数軒あるが、そこを超えている。ただ、後から知ったのだが、そのチェーン店は、家系でもさしてメジャーな店ではなかった。

その後、帰省するたびに、別の家系にも挑戦してみたのだが、初めに食べた店ほど美味しくはなかった。しかし、がっかりするほどではなく、僕の中で地元では食べる機会のない家系ラーメンへの幻想はふくらむ一方だった。

ネットで調べると、こちらの地方でも家系を食べさせる店はある。しかも最近、老舗直系のラーメン店が大々的に進出したのを知る。コロナ禍で出向くことを控えていたが、いよいよ今日、出かけることにした。早朝ジョイフルに出向き、モーニングを食べながら3時間ばかり読書をして、片道一時間のドライブでお店につく。

店はいかにも家系という感じで活気があり、ビジネス街の休日のお昼前にもかかわらずそこそこお客もいる。ラーメンには海苔を増量し、卵をトッピングした。手ごろな値段の野菜の小皿とチャーシュー丼も頼んでみた。

ところが、これが、まったく美味しくない。肝心のラーメンが、辛いばかりで旨味にとぼしい。サイドメニューの二つも、同様の味付けでまるで美味しくない。

その予想外の出来事に、自分がコロナに感染しているんじゃないかと怖くなった。嗅覚が失われる症状もあるというなら、味覚がおかしくなることもあるかもしれない。しかし、味がしなくなったわけではなく、しっかり美味しくないと感じるのだ。

おそらく初めに食べた家系の店の味付けがたまたま僕の「未開の」舌にマッチしたというだけなのだろう。もうこの店には来ることはないという思いとともに、僕の家系ラーメンへの幻想はがらがらと崩れていった。