大井川通信

大井川あたりの事ども

ある演出家のアンガーマネジメント

昨日は、政治学白井聡のネット上の暴言について書いた。彼は確信犯だから、形式的には謝罪したものの、自分のスタンスを変えるつもりはないだろう。

ちょうど同じ時期に、偶然まったくこれと反対の事例をネットで見つけた。演出家の多田淳之介さんには、かつて長期のワークショップでお世話になったことがあり、それ以来、時々SNSの書き込みをチェックすることがある。

今回、ひさしぶりにのぞくと、自分のハラスメントを自覚して、自主的に謹慎しているという記事があった。

確かに多田さんには、体制批判的なところがあって日本の政治や社会、劇場の在り方について、結構厳しく批判したりすることもあった。公共劇場での事業の担当者が単年度で交替することに怒って辞任するという書き込み(実際のなりゆきは不明)を何年か前に読んだ時には、問題点の指摘はわかるが、ちょっとやりすぎのような気もしていた。

詳しい事情はわからないが、今回自分の怒りがハラスメントを生み、他者を傷つけていることに気づいたため、謝罪とともに謹慎し、アンガーマネジメントのプログラムに参加しているという。

 40代半ばになって仕事上の実績も積み上げてきたなかで「反省と更生」を自ら宣言することは、かなりかっこ悪いことだろう。なかなかできることではない。

多田さんの芝居には、役者の身体に負荷をかけて舞台上での様々な反応や変化を見せるものがある。ハラスメントにいたる自分の身体のありようを冷静に観察することができるのも、身体との柔軟なつきあいの下地があるからだろう。自分のアイデンティティをいさぎよく脱ぎ捨てることができるのも、それが演劇というものに特有の振舞いだからかもしれない。

正義に固執する言論人に比べると、演劇人ははるかに柔軟でしたたかだと感じる。

  

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