大井川通信

大井川あたりの事ども

『直感でわかる数学』 畑村洋太郎 2004

数学は苦手だったにもかかわらず、今でもたまに読み物風の入門書などに手を出してしまう。わかるようになりたい、という気持ちがどこかに残っているのだろう。たいていは開くこともないけれども。

この本は、ブックオフで200円で買ったもので、積読の運命にさらされていたのだが、思い立って読んでみた。そして驚いた。とにかく、よくわかるのだ。活字も大きいし、絵や図も多い。どうせ途中で振り切られるだろうと思っていたが、たやすく最後まで目を通すことができた。

三角関数」「行列」「虚数」「微分積分」「確率」など、高校の数学で習いながら、何のことやらさっぱりわからなかったことが、とにかく腑に落ちるように説明してある。数学を専門としない工学者の著者が、自分の中にもあった数学へのもやもやを晴らして、文系の高校生にも数学が理解できるように、徹底してかみ砕いた成果といえるだろう。

ここには、わかる、ということへの深い考察がある。著者の考えを、僕の言葉に置き換えて説明してみよう。数学は、論理の世界の学問だ。その論理の世界にはまり込んでしまった数学者なら、論理自体をそのまま抽象的に理解することができるだろう。しかしそんな数学者によって書かれた教科書は、およそ一般人向きではない。

一般人である僕たちは、日常生活をベースにして、考えることを含む行動によって、世界を理解するために様々なテンプレート(鋳型・雛形)をつくっている。形式論理の世界のエッセンスを引っ張ってきて、このテンプレートに当てはめることができたときにはじめて、僕たちに「わかった」が成立する。この本は、それぞれのアイデアの発生にさかのぼって、それが何を目指していて、どんな風に役立つものであるかを、日常の論理にひきつけて説明してくれる。

僕みたいな文系人間に、高校数学にリベンジしてみようかなと思わせるくらいの快作だ。