大井川通信

大井川あたりの事ども

『郵便と糸電話でわかるインターネットのしくみ』 岡嶋裕史 2006

積読本を読む。今さらながらだが、ICT関連についても、最低限の知識や見識は持っておきたくなったので。

通信の原理が段階をおって、絵図と漫画風の吹き出しでわかりやすく説明してあるので、なんとか最後まで振り切られずに読みすすめることができた。技術的には高度でも、その考え方は、一歩ずつ、間違えのない理屈によって踏み固められているものであることが、よくわかった。なるほど技術的思考とは、こういうものかと。

「インターネットをはじめとするコンピューター通信は、今後さらに人間の生活圏に浸透するでしょう。それを後押しする方途として、なるべく末端利用者に負担を感じさせない実装、換言すれば通信のブラックボックス化が進展します。利用者にとっては楽でいいのですが、一方これだけ身の回りに偏在しているものの動作原理が分かっていないのは、怖いことでもあります」(あとがき)

この本が2006年に出版されて、その新刊を僕が購入していたというのは、今になってみると(大げさに言えば)歴史的な意味があるだろう。

00年代半ばにネットの利用が爆発的に進展し、その原理を知りたいという需要に応じて、タイムリーに集英社新書で入門書が企画されて、おくての僕なども手を出したのだろう。新書の出版には、世相が反映される側面がある。

では、今こんな内容の出版の企画が通るかというと、そうはならないような気がする。この15年で「あとがき」に書かれているような「通信のブラックボックス化」が進行し、いまさらその原理を知りたいとも思えなくなっているのが、現状だろうからだ。人々の欲望は、新たな通信サービスが何をしてくれるのか、にしか向かなくなっている。それはそれで「怖い」ことにはちがいないが。