読書会の課題図書として北原白秋の詩集を読むとき、できればこれは文句なしという傑作を見つけたいと思った。朔太郎好きとしても、二人はほぼ同じ世代で師弟や兄弟のような交流のイメージがあるから、朔太郎に匹敵するような作品があるのではないかという期待があった。
600頁の詩集をざっと読み飛ばして、まずこの「城ヶ島の落日」という作品が目に留まった。結局いろいろな条件を付けたりせずに文句なしにいいと思えるのはこの一篇だけだった。
100年の時間が経ち、またジャンルの確立前後の時代なのだから、詩の概念も言葉の感覚もだいぶ変化しているだろう。じっくり立ち止まって、あれこれながめまわして鑑賞するなら面白そうに思える作品はちらほらあった。
白秋の詩世界の中心と広がりは、現代のそれとはだいぶ距離がある感じだ。ただ、たとえ一篇でもこちらの胸倉を直につかむようなものが書けるというのはやはりすごい。文庫で5頁にわたる大作なので、全文引用はできないので、連ごとの展開を書いてみる。
第1連。「大火輪」である太陽が真っ青な海に落ちかかる情景。
第2連。一転「さくさく、さくさく」という響きが耳をとらえ、一心に草刈りをする男の姿。
第3連。さらに男自身の主観の語り言葉による情景の説明。
第4連。小舟の男の逆光での巨大化により幻覚が始まり、太陽が増殖して空にも海にも山にも無数に飛び回り転がり回る。尋常ではないスケールの描写。
第5連。刈草を背負った男が立ち上がると幻覚や止み、再び落日の風景。
第6連。「何かを企んでいたある力」が押し寄せる落日の瞬間と男の「南無阿弥陀仏」、イカ釣船の「イルミネーション」。
三好達治みたいな的確で大きな自然描写と、草野心平のような気持ちの入った激しい比喩が、しっかりと隙のない構成の中に尽くされていて、感心するばかりだ。