大井川通信

大井川あたりの事ども

新古今和歌集を読む

詩歌を読む読書会で、新古今和歌集の解説本を読む。全2千首の内、80首を解説した角川文庫のビギナーズクラシックのシリーズで、高校の先生が執筆しているためか、背景知識などの記事もわかりやすく、素人にはありがたい。

読書会はいつも通り、参加者各人が自分なりのベスト3を順番に選んで感想をのべたあと、全員がその作品にコメントするというやり方をとる。ただ良いというだけでなくその理由が説明できて、なおかつ他の人もコメントしやすく話題も広がりそうな選定をするという「芸」が必要で、当日の参加者の顔ぶれや会の雰囲気(好み)を様子見しながら即興で選びなおしたりするところが妙味だ。僕は、次の三首を選んだ。

志賀の浦や遠ざかりゆく波間より氷りて出づる有明の月 藤原家隆

聞くやいかに上の空なる風だにも松に音するならひありとは 宮内卿

人住まぬ不破の関屋の板びさし荒れにし後はただ秋の風 藤原良経

一首めは、「本歌取り」によって、波間が遠ざかる理由(岸辺から水面が凍っていくため)の説明を省略し、その元ネタのイメージのままに氷った月を登場させた情景の視覚的な見事さで選んだ。

二首めは、自分を振った男に対して、毅然と理詰めで攻め立てる女性の態度が面白い。「上空」と「あてにならない」、「松」と「待つ」、「音を立てる」と「訪れる」というそれぞれ二重の意味の「掛詞」を駆使している。「ならひ」は習慣のこと。

三首めは、芭蕉の「秋風や藪も畑も不破の関」の元ネタとして知っていた歌。廃屋の象徴であるバタバタした板庇という具体物をしっかりとらえた上で、秋の風へとつなげるリズムがとても心地いい。

本当に良いと思えた歌は、いつの時代も変わらない人間心理の根本を読み込んだ有名な次の二首だったけれども。

忘れじの行く末まではかたければ今日を限りの命ともがな  儀同三司母

年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり佐夜の中山  西行