大井川通信

大井川あたりの事ども

やっぱりクロスミ様の出番でした

 黒尊(クロスミ)様をお参りしようとして里山の林道に入ると、すぐ先をお年寄りがサンダル履きで歩いている。この辺りで出会う地元の人はマツシゲさんくらいだが、少し様子が違う。声をかけると、林道のすぐ下に住んでいるフジモトという人だった。

林道の途中で引き返そうとしたみたいだが、僕がクロスミ様まで歩くつもりというと、つきあってくれることになった。

フジモトさんは大井の生まれではない。今は74歳だが、40年くらい前に、子どもを育てるために引っ越してきたそうだ。もともと四国の山奥の集落で生まれて、都市部の大きな工場に勤めた。なにもかも様子が違ってとまどったという。おそらく自然の残る大井に安らぎを感じたのではないか。

フジモトさんも、大井川がダメになったという。メガソーラーの設置のための山の開発で、泥水が流れ込み、川がにごってしまった。釣の好きな藤本さんは、ハヤがいなくなってしまったと残念そう。僕も原田さんから聞いた、鯉がやせてしまった話をする。

フジモトさん自身も、クロスミ様に上がれることを知ったのは5年ばかり前のことだという。用山(モチヤマ)からの正式な「参道」を歩いたことはまだないそうだ。ホコラの脇の由来書の文面の解釈を得意げにしてしまう。「クロスミ様を招いた中国というのは、外国のことでなくて、おそらく中国地方の修験の山でしょう・・」

僕はモチヤマ側に降りるので、山上でフジモトさんと別れる。歩きにくかった山道が見違えるほど整備されている。草木が刈られ、階段の補修までしてある。遥拝所だけでなく、途中にある別の神様のホコラの周囲までが、きれいに掃除されて、新しく竹でベンチのようなものが作られている。全山に人間の気配りが行き届いていて、クロスミ様の霊威もみなぎっている感じだ。

間違いない、コロナ禍で、モチヤマの人たちが、幕末に伝染病を撃退した神様であるクロスミ様への信仰を新たにしたのだ。モチヤマは周囲を山に囲まれて、外部から入り込む人がほとんどいない状態でコミュニティが維持されている。信仰心が続いているのはそのためだろう、とフジモトさんも話していた。

平成の初めに古い石のホコラを囲う木造の小堂を建てたのも、ムラの人口が減りさびれていくのはクロスミ様をないがしろにしてしまったためと考えたからだという証言を読んだことがある。

モチヤマに降りると、地蔵様、観音様、阿弥陀様とムラ人が大切にする神様にあいさつをしてから、貯水池の脇を歩いて住宅街に戻る。

 

 

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