大井川通信

大井川あたりの事ども

『経験なき経済危機』 野口悠紀雄 2020

コロナ禍の半年間のドキュメンタリーみたいな本。雑誌の連載記事を中心にした本だから、問題の指摘のみの部分も多く、雑多な印象だ。著者が高齢で行き届いた本づくりができないということもあるかもしれない。

しかし昨年、同じ著者の『戦後経済史』を読んで、著者の姿勢に敬意を抱いたので、現在進行形の事態に対する信頼できる診断として手にとってみた。

コロナ禍の出来事の中で、一律10万円給付という政策は、とにかく気持ち悪く違和感のあるものだった。著者の見立てでは、コロナ禍で経済的に苦境にあえいでいるのは国民の3割であり、技術的な困難は伴うにしろ、その本当に必要な人たちに支援を集中すべきだったという。こんな正論すら事態の渦中ではほとんど聞けなかった。

国債発行による資金調達やマネーの問題などについて、僕には判断する能力がない。著者の立場は、あくまで例外的な事態として現在の積極的な財政政策は肯定されるというもののようだ。極端に人工的に肥大化したマネー経済の分野には、そもそも正解はないのかもしれない。

著者は、ネットやオンラインを最大限活用していく社会を「ニューノーマル」と呼び、日本社会がその不可避のデジタル化の動きに対していかに遅れているか、そしてそれが日本の生産性をいかに低く抑えているかを、危機感をもって描き出している。

労働生産性では、もはや日本は先進国とはいえないという衝撃の事実は、一般にはなかなか僕たちの耳に届かない。「アベノミクスとは、生産性を向上させることなく、非正規の低賃金労働に依存して企業利益を増やし、株価を上げたこと」だったと診断される。

著者はコロナの災いを転じて福となすような希望も語ってはいるが、本書の全体のトーンからは、すでに手遅れである印象が否めない。

  

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