大井川通信

大井川あたりの事ども

『教育委員会が本気を出したらスゴかった』 佐藤明彦 2020

これもまたコロナ禍の初めの数か月におけるドキュメンタリーのような本。あの戸惑いや不安を経験している身からすると、確かに熊本市教育委員会と学校の対応は、群を抜いて迅速であり、見事だったと思う。

題名と出版のタイミングから、やっつけ仕事みたいな本なのかと思ったが、ていねいでわかりやすい記述と、幅広い視角からの地に足のついた分析がなされていて、好感がもてた。

4年前の熊本地震からの復興をきっかけに、教育のICT化が急ピッチで進められていたこと。市長と教育長との連携による迅速な意思決定が可能だったこと。普通教室への端末の導入とともに、導入研修など手厚いサポートと教員用の端末を準備したこと。端末の使い方に制限を設けず、子どもたち(と教職員)の主体的な学びを後押ししたこと。

さまざまな要因が有機的につながって、学校現場で付け焼刃でない成果をあげつつあることが理解できた。著者が強調しているように、教育の世界に蔓延する「ゼロリスク症候群」と横並び意識を打破している点に特に目を見張らされる。

しかし良い本であるだけに、無いものねだりもいいたくなる。この教育委員会の「スゴさ」というのは、やはり日本の公教育の「先進事例」であり、その枠の中でのスゴサを誇っているようにも見えるのだ。

教育の世界のトレンドを追いかけているだけでは、もはやどうしようもないところにきているのではないか。昨日の野口さんの本などを併読していると、そんな悲観的な気持ちにもなる。