子どもの頃から、モズは身近で好きな鳥だった。大柄なスズメのようなキュートなルックスで、タカのように狩りをするというのも魅力だった。
モズといえば、獲物を枝先などの刺しておくという早贄(はやにえ)が有名なのだが、僕はこれまで毎年モズを観察しながら、肝心の早贄を見たことがなかった。バードウォッチャーとしてモグリだと言われても仕方ないだろう。
朝、散歩している時、田んぼの中の電線にとまるモズを見つける。背のグレーとお腹の赤茶色と目のあたりの黒いラインとのコントラストがはっきりした、きれいなオスだ。もう高鳴きもしないで、枯れた田んぼに飛び降りては、また同じ見晴らしのいい場所に戻っている。ここが彼のナワバリなのだろう。
ふと、モズのすぐ下が、金網で囲われた貯水池で、有刺鉄線がめぐらされているのが目に入った。今時、殺伐とした有刺鉄線は珍しい。鉄のトゲならモズが早贄をしているのではないかと閃いて、あぜ道に足を踏み入れる。
予想は的中した。まず、バッタが仰向けに串刺しにされている。これはまだ緑色で新しい。次に干からびて真っ黒になった生き物だが、細長い脚を開いている姿はカエルだろう。そしてカエルがもう一匹。トンボらしき昆虫も。
今までは、自然の樹木の枝先を探していたのだが、ナワバリにある有刺鉄線の方が早贄を見つけやすいのかもしれない。現物を見られたのは何よりうれしかった。僕には、フィールド上で味わえる最大級の喜びといっていい。
午後には買い物の途中に車を停めて、妻を早贄の現場に案内し、得意げに説明してしまった。