大井川通信

大井川あたりの事ども

『流しの公務員の冒険』 山田朝夫 2016

東大法学部卒の自治省のキャリア官僚だった著者(1961-)が、大分県への出向をきっかけにして、地方での仕事の魅力に取りつかれて、小規模の町や市で課題解決の仕事を請け負う「流しの公務員」として活躍する姿を描くドキュメンタリー。

古書店で見つけたのだが、表紙に笑顔でトイレ掃除をする著者の写真があって、そのあまりのベタさで購入をためらったほどだった。ただ読み進めるに従って、そんな写真にも納得できるようになり、この手の本の中でも出色の内容であることに気づいた。

とにかく目線が低い。それは、キャリア出身とは思えない、わかりやすく謙虚に自らの発見と体験をつづった文体に現れている。現場で、ふつうの役場の職員や地域の人たちと徹底的にぶつかり、仕事や生活をともにした生き方の成果だろう。

 仕事とは、「心の底から」問題を解決したいと思って行う「具体的な」行動である、と著者はいう。問題解決のポイントは、「問題の本質から逃げない」「どこがゴールかをはっきりさせる」「関係者を巻き込み、その気になってもらう」ということになる。

別に目新しいことではない。仕事術などのノウハウ本にはもっとスマートにまとめられている知識だろう。しかし著者の一歩一歩の歩みの中から発せられる言葉には、各段の重みと説得力がある。以下、気になった部分の引用。

「人の心はどのような時に動くのか。それは『驚いた』時です。予測を超える『事件』が起こった時、初めて人の心は動く」「ファシリテーターは『すべての意見には傾聴に値する部分がある』という姿勢を貫くことが必要です」「情報を公開し、きちんとした議論をすれば、意見は必ず正しい方向へ集約されると信じること」

「県庁というのは一番中途半端な組織です。理屈はこね、いろいろ指導をするけれど、結局、責任をとるのは現場です」「官僚が語る『地方創生』の話を聞いていると、言葉だけが上滑りしている感じがあります。それは『現場』がないからだと思うのです。バックに自分の実体験があるのとないのでは、言葉の力が全然違います」