大井川通信

大井川あたりの事ども

『倒錯のロンド(完成版)』 折原一 2021

1989年に刊行された作品の完成版。文庫本で以前読んでいたので、加筆修正箇所を確認しようと思って蔵書を探したのだが、見つからなかった。

メインのトリックは漠然と覚えてはいたが、ストーリーがシンプルで分かりやすく、ぐいぐい引き込まれた。ただ、終わり付近での展開がごちゃごちゃしてわかりにくく、読了時の達成感が意外なほどなかった。

ミステリーについては(も)ド素人でしかないが、この世界のありようを理解するためのツールとして考察してみたい。よって、以下はネタバレそのもの。

三人の男がいる。オリジナルの作品を書いた白鳥と、それを盗作した山本、さらに山本の盗作のコピーを手に入れた永島。ここで三人は、オリジナル、コピー、コピーのコピー、という関係だ。

ところが、ここで山本が、憧れと嫉妬と焦りからくる狂気によって、自分をオリジナルと思い込む。白鳥の出版と山本の原稿との本来の時間的順序は、「叙述トリック」によって読者には隠される。この山本の思い込みを信じて、たまたま原稿をひろった永島は、山本を亡き者にして、オリジナルの作家の地位を奪おうとする。

永島との対決に敗れた山本は、成功者の白鳥を自らのコピーである永島と勘違いをして、復讐を開始する。オリジナルであるはずの白鳥は、コピーの山本から精神的に追いつめられて狂気が伝染し、あたかもコピーであるかのように振舞いだす。

復讐を達成した山本は、自分と永島とのコピー同士の闘いについて小説を構想するのだが、その原稿をこんどは白鳥が手に入れて自分の作品として発表しようとする。ここで、白鳥と山本の立場は逆転する。最終的には、この原稿を山本が奪い返し、文学賞に応募することで、山本はようやくオリジナルの作家の地位を手に入れる。

オリジナルとコピーとの関係は相対的なもので、絶対的なオリジナルがあるわけではない。どこまでいってもオリジナルを擬態するコピーがあるばかりなのだ。読了後スッキリしなかったのは仕方ないことかもしれない。