大井川通信

大井川あたりの事ども

「ショーン・タンの世界展」を観る

ショーン・タン(1974-)の絵本は何冊か読んで気に入っていたし、コロナ禍で美術展に行く機会もめっきり減っているので、楽しみにして観にいった。時節柄、入り口では入場人数の制限などしていて、期待もたかまる。

原画や制作ノートや様々な資料が展示されていて興味深いものではあったが、見終わってみて、意外なほど印象が薄く、図録にも手が伸びなかった。

言うまでもなく絵本作家にとって、自分の表現として勝負しているのは絵本という形態なのだろう。手に取ってそれを読む人に対して、100パーセントの力を発揮すべく作りこまれているはずだ。原画といえども制作過程の一要素であり、あくまで本物は絵本という最終形態の方なのである。

この点で、美術館やギャラリー等で展示されることを目標に制作されている美術作品とは性格を異にする。原画や制作過程を詳細に知れば知るほど、作品の超越性が毀損されるようで、がっかりする気持ちが強かった。

もっとも、本当のファンだったら、楽屋裏やメイキング資料を楽しむことができるのだろうが、それはかなりマニアックな領域だ。僕は図録ではなく、最新の分厚い絵本作品を購入した。家でごろ寝しながら、それをじっくり楽しもうと思う。