大井川通信

大井川あたりの事ども

『老いる家 崩れる街』 野澤千絵 2016

家。家。家。僕の頭の中は、おそらく家のことでいっぱいだ。子どもの頃は、家が世界そのもので、それは世界の中心であり続けた。よその家との比較ができるようになると、それは悩みやコンプレックスの種となった。社会人となって、家を購入すると、そのためのローンの支払いや、家の維持管理が重荷となり、頭を悩まし続けることになる。

家。家。家。一歩外にでると、世界は人間の住む家であふれている。戸建て、アパート、マンション、住宅団地。そこから大量の人が吐き出され、また吸収される。

家。家。家。にもかかわらず、僕たちは、人間や社会のありようを、家とは切り離して、あたかも家をたんなる自然な風景や環境であるかのようにして、語り勝ちではなかったか。

家。家。家。僕個人の反省としていえば、高度成長期の東京郊外に生まれ育った僕は、空き地に家が建ち続ける住宅の膨張プロセスを、あたかも自然過程のようにして受け入れ、玄関と庭付きのマイホームを所有することを、人生の当たり前の目標であるかのように刷り込まれていたのだ。

家。家。家。近年になって、僕が大井川歩きと称して、あくまで寝起きし生活する自宅を中心にして、そこから徒歩圏内のみの探索をし続けているのも、自分の思索の中心に家を置きなおそうという思いからだったような気もする。

家。家。家。にもかかわらず、僕が家をみる目は十分にクリアーでなかったと、いや、それどころがそれがビー玉や銀紙ではなかったかと気づかせてくれたのが、本書である。

家。家。家。人口減少社会であるにもかかわらず、増え続ける住宅の実態とそのメカニズムを描き、空き家と老朽化した住宅、スカスカになった住宅街やマンションの問題を取り上げる。その根本原因が、一般になじみのない都市計画や住宅政策の問題であることを解明して、今後の方策として「住宅の立地誘導」という考え方に照明をあてる。

家。家。家。これからの僕の近所の探索は、今まで以上に家を意識したものになるだろうし、この本はそのための優れたガイドブックになるのは間違いない。