大井川通信

大井川あたりの事ども

僕の道くさ地図

子どもの道くさにかんする本を読んで、あらためて子どもと地域との濃密な関係について考えさせられた。本は、通学路に関する調査だ。それが単に通学のための手段ではなく、子どもにとって目的そのものといっていい体験の場所であることが描かれている。しかし、家の回りの土地と子どもとの関係は、通学以上に、遊びでのかかわりが大きいだろう。

僕は、東京の郊外の住宅街で生まれ、学生の時までそこで生活した。今の九州の地方都市での生活は、すでに同じくらいの期間になる。いくら年数を重ねても、車主体の生活では、土地との関わりが希薄でまるで違う。そのことに気づいてから、自宅の周辺を歩いて調査する、ということを自覚的に行うようになった。

歩きながら、いろいろ調べて楽しむためには、地図が必要だ。はじめは、既成の市街地図や観光地図を使っていたが、やがて自分でこんな地図を工夫するようになった。

東京の故郷の分と今の自宅の周辺と、二枚の二万五千分の一の地図を用意する。そこに実家と自宅を中心にコンパスで、1キロ、2キロ、3キロの同心円を描く。それをA3判の大きさに切って、柔らかいクリアファイルに挟み込んで、表と裏で自由に比較できるようにしたのだ。

その時は、こういうものがあったら便利だと感覚的に思って作り、実際に役にたったのだが、子どもの道くさの観点から、その理由を説明することができるだろう。

僕が第二の故郷ともいうべき土地で、あらためて「歩く場所」「道くさを食う場所」としてまちを体験しようと思った時に、その手がかりとなったのが、子ども時代にそれを体験した本家本元である実家周辺であり、その地図だったというわけだ。

僕は実家の地図の思い出の場所にマーカーで印をつけた。今の家の地図の方にも、歩いて訪れた場所をマーカーで印をつけていく。二つの地図を比較することは、自分の体内深くに刻まれた地域体験、空間体験の記憶を手がかりとすることで、今住む土地をより深く理解しようという試みだといえるのかもしれない。