大井川通信

大井川あたりの事ども

ツツジとフジ棚

菜の花と桜がすっかり終わって、まちを歩くと、ツツジの花が目立つようになった。

実家のあった国立には、かつて東京海上火災の計算センターがあって、歩道側の斜面にツツジが植えられていた。ツツジが咲き誇ると、毎年家族でそれを見に行った思い出がある。歩いて10分。極小の家族旅行だが、そんなことが記憶には残る。

今の家を購入したとき、庭には少しツツジが植えられていた。ところがなぜか妻がツツジが嫌いでひっこ抜いてしまったのだ。残念だったが、激しく抗議するまでツツジの肩を持つ義理があるわけではない。玄関の向かいの小さな公園のスペースにはツツジの生垣があって、毎年ふんだんにツツジを見ることができるし。

子どもの頃は、意識してフジの花を見た記憶はない。大人になって九州に来てから、フジの名所といわれるところに行くようになった。ちょうどゴールデンウィークに入る四月の下旬が花の盛りだから、ドライブにもちょうどいい。

フジの名所はたいていお寺で、大きなフジ棚の下でお祭りが行われている。薄紫の花の房がずらっと垂れている姿は壮観だが、わざわざ見に出かけたくなるほど心惹かれるかというと、ちょっと微妙だ。本来上に伸びたい樹木を棚にはわせて、人工的に作りだした景観というのがちょっと鼻につくのかもしれない。たまに、山でみるのびのびと成長したフジの姿を見かけると、そちらのフジの方が幸せにも思える。

フジ棚のしたでは、きまって大きなクマバチの姿を見かける。騒ぐ人がいないのは、フジ棚を毎年見に来るような人は、クマバチが人を襲わないことを体験的に知っているからなのだろう。クマバチ好きとしては、ちょっとうれしい。

前の職場の近くにもフジのある寺があって、お祭りがおこなわれていた。地域の付き合いで宴会のカラオケにも付き合わないといけない。仕事の延長だから観光客のように気楽にフジを楽しむわけにはいかなかったが、フジ棚を管理して毎年のお祭りをむかえる地元の人々の思いに触れることができた。