大井川通信

大井川あたりの事ども

オリジナルとコピー

絵画はオリジナルは一つしかなくて、子どもたちには、たいていコピーの複製画を見せることしかできない。しかし、絵本は一冊一冊がコピーではなく、本物の絵本だ。絵本の原画がオリジナルというわけではない。だから、子どもたちに手軽に本物を与えられる絵本をふんだんに読ませよう。

『子供の世界  子供の造形』(松岡宏明  2017)を読んでいたら、こんな趣旨の文章にぶつかった。よい本というものは、薄くてやさしく書かれていても、いくつもの驚きを与えてくれるものだ。

この本を読んで、子どもと大人との対比や、芸術の本質、幼児の記憶について認識をあらたにすることができたが、この絵本のオリジナル性についての指摘も、従来の僕のもやもやを晴らしてくれるものだった。

僕は以前、絵本の原画や資料の展覧会を見て感銘が薄いことに気づいて、ほぼ同様の考えに行きついてはいたが、こうして明快に整理してもらうと、自分の考えに確信をもつことができる。

今は地元で漫画家諸星大二郎さんの展覧会が開催されているのだが、原画をみて、これが実際に諸星さんが描いた絵なのだと自分を無理に感動させようとしても、むしろその場面を含む漫画作品の方を読みたくなってしまうのだ。

原画や関連資料は貴重なものであっても、あくまでそれはオリジナルである本物の作品を味わう上でのプラスアルファにすぎない。この点で、絵本も漫画も考え方は同じなのだろう。 


追記

「版画をのぞけばたいていの絵画作品は、一点しか本物がありません。一方、絵本は印刷物であり、印刷され製本されてようやく本物の絵本になります(絵本の原画は絵本ではありません)。ですから、本物が何千、何万冊と存在します。この点は大切なことです。子供たちをたやすく本物と出会わせることができるのです」(148頁)

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