大井川通信

大井川あたりの事ども

梅雨の晴れ間の大井川歩き

快晴だけれども、じとっと汗ばむような陽気。

ババウラ池を久しぶりにのぞくと、カイツブリのつがいが、豆のように小さな二羽のヒナと一緒に泳いでいる。浮巣には白い卵が残っているが、孵化できなかったものなのか、温めて遅れて孵化するものなのか。

二羽のヒナは、親鳥の背中に乗り込んで、羽根の中に身を隠す。小さな頭だけをのぞかせたりもする。カイツブリのおんぶを今年は見ることができた。梅雨時で、池にはなみなみと水が満ちている。これなら、このヒナたちの成長には問題ないだろう。

子育ての時期がもっと遅い年には、水が抜かれ、日増しに小さくなる水面に取り残されるヒナたちの姿にハラハラする日々を送ることが、何度かあった。

単眼鏡で観察していると、犬の散歩途中の男の人から声をかけられる。「東京の井之頭公園だったらカメラの放列ですよ」とカイツブリの子育ての可愛さを吹聴する。ため池に300年以上の歴史があることや、近くの林にヒメボタルがいることも。

名前をうかがうと、同じ住宅街の人だった。お金もかからないしコロナ禍でも楽しめます、と大井川歩きの宣伝をして、気持ちよく別れる。

今朝は村山田まで歩くことにする。最近街道を車で通りかかったとき、工事で庚申塔が撤去されているように見えたのだ。もし撤去されたのだとしたら、この7年で僕のフィールドから姿を消した二つ目の庚申塔ということになる。

ドキドキしながら現地に近づいたが、隣りの区画の田んぼをつぶす工事と見間違えていたようで、立派な庚申塔の姿は健在だった。

宝永三年とはっきり刻まれているから、西暦1706年。315年の歴史がある。この地方の庚申塔は、「庚申」か「猿田彦」かどちらかの文字が刻まれた文字塔だ。東京のように「青面金剛」の像が浮彫りされた面白い石塔ではない。

ところが、村山田のこの塔には「青面金剛」の文字が刻まれており、東国の庚申信仰とのつながりを示す(と僕なりに解釈できる)珍しいものだ。全文は「奉請  青面金剛夜叉明王」というおどろおどろしいもの。まだまだこの地域ににらみをきかせてもらわないと困るのだ。

田んぼには、ムクドリが多い。滑空する姿は、米軍機のスカイホークに似ているなと思う。トラクターの後ろにギリギリまで接近してシラサギが虫にありつく。アスファルトに鮮やかな黄緑のギンヤンマが止まっていて、不意に飛び立つ。

今年初めてのホトトギスの声が遠くから聞こえてくる。ちょっと遅い初音かな。