大井川通信

大井川あたりの事ども

新型コロナウィルスに感染する ⑥(救急車で搬送される)

7日目の朝になって、前日まで95をキープしていた酸素飽和度が80代にまで落ちた。体温は38.1℃。看護師からの連絡で、入院を検討することになったという。

あわてて、滞在中初めてシャワーを浴びる。それまで身体を洗う気力もなかったのだ。しかし、コロナ病棟での治療中の身体の痒さや不快感を考えると、この時無理をしてシャワーを浴びたのは、正解だったと思う。

救急車の出発と入院先の受け入れの時刻が決まっているので、午後1時までには準備してくださいと言われる。もう少し余裕をもって言ってくれないかと思いつつ、身体に鞭打って、よろよろフラフラと動き回る。この頃はすでに元気になっていた次男が、リュックへの荷造りを手伝ってくれた。

次男との別れの記憶もない。この時相当悪くなっていたのだろう。ようやくホテルから脱出できたと思ったら、救急車のベットに寝かされ、酸素吸入のマスクを装着したうえで、ビニールのようなもので密閉されてしまい、視界はほとんどない。

救急隊員たちの会話を聞くと、僕の地元の地理には明るくないようだ。声をかけて教えてあげたくなる(もちろんその気力はない)。救急車のベットは固く振動がダイレクトに伝わって乗り心地はかなり悪い。小一時間かけてようやく入院先の病院につく。

病院は地元の救急病院で、僕と家族も何度もお世話になっている。何より知人の安部さんも長期入院中だ。

病院のベットに移され、そのままCTの検査を受ける。コロナ病棟の病室に入ると、酸素吸入器が取り付けられ、点滴がはじまる。医師や看護師さんたちは、手術室で見るような薄い緑色のビニールのようなもので全身を覆っている。それに見慣れてしまったが、患者と対応するために、かなりの重装備をしているのだろう。後に一般病棟に移るときに、軽装の主治医と看護師たちの姿を見て、そのギャップに驚いた。

こうして初めて患者らしく手厚い治療を受けるようになり、それが本当にうれしかった。ひとまず安心に思えたのは無理はない。

この病院がコロナ患者を受け入れたのは先月からであり、僕はかなり悪い状態で入ってきた患者だったようだ。にもかかわらず僕は精神的に多少ゆとりがあるようにふるまっていたのかもしれない。あとから聞いたのだが、看護師さんからは、僕は症状の自覚がないというふうに受けとられていたようだ。

たしかにその気味はあったのかもしれない。ただそれよりも、本格治療が受けられることの安心感が先にたっていた気がする。それと同時に、なじみのなる地元の病院がもたらす安堵感も大きかったのだと思う。