大井川通信

大井川あたりの事ども

新型コロナウィルスに感染する ⑮(窓と鳥)

ホテルでの生活の時、窓から見下ろす街中の風景が、心をなぐさめてくれた。コロナ病棟でのつらい治療の時も、四階にある病室の窓からの見覚えのある景色が、だいぶ救いになった。そこには、僕がよく車を走らせた国道や、家族ででかけたショッピングモールが見えていた。また、あそこに行きたいと思う。当たり前の生活があこがれの対象になる。

壁に窓がうがたれると、そこには奥行きや展望のある景色がおのずから現れる。自分の未来の生活の舞台を間近に見ることができるのだ。病室のベッドに釘付けにされた患者も、自分の未来や希望について考えることを誘われる。ただの壁に向かってそれを想像することは、弱っている患者にはとても難しいだろう。

ところで、窓は天界にうがたれたのぞき穴でしかないのだが、下界からそこに訪ねてくる者がいる。鳥たちだ。

カラスがバタバタと羽ばたいて、夕方ねぐらに戻っていく。力が入っている割には、前に進んでいるようにみえない。自分が天界の住人になってみると、鳥たちの飛び方の巧拙までが気になってしまう。

ツバメの滑らかで素早い動きは、やはり素晴らしい。さらにはトビ。カラスが嫉妬してちょっかいを出したくなる気持ちがわかるほど、飛行の優雅さと徹底した合理性は、うっとりと見てしまいがちになる。すると、目の前をサギが通過していった。その骨格は、まるで翼竜プテラノドン)だ。

彼らは自由でうらやましい、なんて単純な比較をしていたわけではない。野生の鳥たちこそ、明日の保証のない厳しい生命を生きているのだから。